Act03-05

 身の丈程もある、大剣を構えた甲斐が叉牙と向き合う。
「…ずいぶんと、重そうだな」
 余裕の表情を崩さずに叉牙が間合いをはかる。
「こんくらい、余裕だろ。…あぁ、オマエの身長じゃ、ひきずるかな?」
 小馬鹿にしたような甲斐の物言いに、ぴくりと頬を引きつらせた叉牙が、声を張り上げる。
「うっせぇ!ただ伸びりゃいいってもんじゃねーんだ!」
 だいたい、テメェ等梁國の連中はそろいもそろって、でかいのばっかでむかつくったら無いぜ、とかなんとかぶつぶつ言いながらも、視線はぴたりと甲斐に合わせたまま。
「よく喋るなぁ、あいかわらず」
「テメェはあいかわらず緊張感が足りねーナ」
 どこか、仲のいい友人のようなノリの会話は単なる腹の探り合い。ふと、会話が途切れた瞬間に、大剣を持っているとは信じられないようなスピードで、甲斐が一歩を踏み出す。
 それに応戦するかのように、叉牙の右手がわずかに発光したあと、ブレードが召喚される。
「…ち。無理させて悪いな、白牙」
 通信マイクに向かって小さく詫びの言葉を告げてから、振り下ろされる大剣をブレードで受ける。
「今さらっていうんだよ、ソレ」
 耳に当てたヘッドホンから聞こえてきた返事に軽く笑う。
「余裕じゃネェか、通信してる時間があるなんてよぉ?」
 どう見てもそんな耐久性がありそうに見えないブレードに軽く大剣を止められた事に内心驚きつつも、さらに体重をかけて押す。体格的にどう考えても小柄で不利な状況にある叉牙の額に汗が浮かぶ。
「…つくづく、むかつくよな。」
「そりゃ、お互い様ってんだ」


 梁國の、とある一室。コードが所狭しと張り巡らされた部屋の中に据え置かれた椅子の上、叉牙と良く似た容姿の少年が、ゴーグルのしたの表情を歪ませて歯を食いしばる。
「結構、重い大剣使ってやがんなー」
 しかし、気を緩めるわけにはいかない。自分が確かなイメージを送り続けてないと、叉牙の武器が威力を失う。
「叉牙、ちょっと、新しい技、開発してみたんだけど?」
 通信マイクを通じて遠くの相棒に声を飛ばす。

「…新しい、技?」
 ぎりぎりとなおも押さえつけてくる甲斐の大剣を受けるのもそろそろ限界。
「それ、効きそうなのかよっ」
 マイクの向こうに問いかける。これで効かねーとかいったら帰ってぶん殴るぞ、アノヤロウ。
「多分、その状況からは逃げ出せるよ。」
 右腕のモデムを相手に向けろという白牙の支持にしたがって、今はブレードに変化しているモデムの赤い球体を甲斐に向けるよう手をひねる。
「…?」
 何の足掻きだって、笑う甲斐を尻目に、
「良いぜ?」
 声をかけると共に、球体から一条の光。慌てて後ろに跳び退る甲斐の左肩を掠めて、光は消える。焼け焦げる服のにおい。
「…うわ、なんだあれ、白牙!」
「レーザーガンの応用。てか、結構つかれるのなー。もうやらね」
「おい。んなの意味ねぇじゃん!」
 肩口を押さえて甲斐が大きくため息をつく。相変わらずの叉牙に。左肩は直撃は免れたもののヤケドを負ったらしく、傷が引きつるような痛みを訴える。
「やってくれんじゃねぇか」
 そうこなくちゃ面白くネェヨな、と笑う顔にはもう余裕はない。左肩を叱咤して両腕で大剣を構えなおす。
「…ようやく本気の顔になったってわけ?」
 叉牙が、再びブレードを構える。

「そんじゃ、今度はこっちからな」
 云うが早いか、叉牙が地面を蹴って一気に甲斐との間合いを詰める。振りかぶったブレードを甲斐が大剣を構えるより速く横に薙ぐ。
 それを体をそらしてよけた甲斐に体勢を整える間を与えずに第二撃を振るう。わずかに切っ先が甲斐の頬をかすって、一筋の傷をつける。それには目もくれずに、構えた大剣を振り下ろすのを横っ飛びに避ける。そのまま、大剣とは思えない速度で横に振られる剣をブレードで受け止めるが、体の軽い叉牙が後ろに吹っ飛ぶ。
「…ンの馬鹿力!」
「おめぇが軽すぎんだろ!」
 埒あかねぇーなぁと呟いたのはどちらの声だったか。
 叉牙の右手が再び薄く発光して、ブレードをレーザーガンに持ち替える。狙いを定めて放つレーザーを甲斐が避ける隙に、その場から走り出す。
「あ、テメェ!ドコいく気だ!」
「いつまでも遊んでらんねーンだよ!」
 じゃあな、と叫びを残しつつ叉牙が瀏斗の走っていった方向へ、向かう。
「おい、勝負はまだこれからだろうが!」
「やかましい!お前よりも、あっちのほうが重要だっつーの!」
 冗談じゃねー。これで、藍嘩つれて帰れなかったら俺凍冴に顔向けできねーよ、とぼやきながら走る叉牙の後を遅れがちに甲斐が追いかける。
「おい!待てっつの!」
「待つわけねぇーだろうが!」
 追っかけてくんな、ソコに居ろとかムチャクチャな言い合いをしながら走り去る二つの影。


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