Act02-01

 衰えるものがある傍らには、必ず栄えるものがあり、栄えたものもやがて衰え行く。世界はそれを繰り返し、時代を築きあげてきた。
 そして、いま繁栄の真っ只中にある国。その名を、梁と言う。呪術や信仰、魔法といった古い風習の息づく倭都卯大陸において、唯一、機械に頼り生きる国。生まれ持つ才能や長年の修行によってしか得られなとい神がかり的な力ではなく、技術と閃きにより手に入れた、機械という武器を、彼らは自らの『魔法』と呼んだ。
「国を出た?」
 梁國の王城の一室、金髪碧眼のまだ年若い王へ、同じくまだ子供と言っても差し支えないほどの幼い少年が報告の為訪れていた。
「そーらしいぜ?なんでも、仲間割れして、国を追い出されたって話だ」
「…へぇ」
「…叉牙、口のきき方に気をつけろと何度もいったはずだ」
 二人の脇に控えていた、いささか神経質そうな男が厳しい口調で声をかける。騎士団長という位に在る彼は、礼儀作法に大変煩く
「…うげ、団長…いつからソコに…」
 注意された少年は、緑灰色の髪を僅かに揺らし、じわりと後ずさる。
「なにが、いつからソコにだ。まったく、オマエという奴は毎回毎回…」
「儀月。説教は後だ。それよりも清姫の行方だが」
「王は、叉牙に甘すぎるのですよ。」
「しかしだな」
「清姫の行方なら、白牙が今も探っています。」
 突如飛び出た双子の弟の名前に、叉牙が僅かな反応を示す。
「しかし、国を追われる王など、初めて聞きますな」
「色々事情があるってことだろう」
「これまでも十年以上も王が不在だったじゃん、あそこは」
 気軽な口調の叉牙の態度に、またぴくりと眉を引き攣らせた儀月が、視線で叉牙を黙らせる。背中にダラリといやな汗が流れるのを感じた叉牙は、引き攣った頬をむりやり引き結んで、視線をそらせる。

「ちょうどいいじゃないか」
 優しげな顔を、僅かに楽しげにゆがめ、笑う声に、儀月と叉牙がそちらを見遣る。
「国を追い出されて行き場のない、かわいそうな清姫をわが国にお迎えしようじゃないか」
「凍冴……じゃねーや、王」
ギロリと睨む視線を受け、あわてて言い直す叉牙が、次の言葉を発するより早く、儀月が言う
「では、いよいよ清都を」
「そうだな、まずは清姫を」
「オレに行かせてくれ」
「叉牙、差し出がましいぞ」
「いや、いい、儀月。−−失敗は許さんぞ?」
「わかってる。…ンなへましねー」
 ニッと笑ってから、身を翻す叉牙を、耳につけた無線機から白牙の声が、追いかける。
「…また勝手に決めてくれちゃって」
「まぁまぁ。オレら、運命共同体っしょ?」
「言ってろよ」
屈託なく笑う声は、確かに叉牙と同じ気持ちであることを伝えてくる。

「そんじゃ、行ってくる。大船に乗った気持ちでまってろよ、凍冴!」
 後に残された部屋の中からは、凍冴の楽しげな笑い声と、儀月の怒号。



「…まったく、アイツはいつまでも成長しない」
 憤懣やるかたないという様子の儀月に僅かに頬を緩める。
「そういうな。あれでなかなか努力しているようだし」
「だから、甘いというのですよ。」
「厳しいな」
 肩をすくめて苦笑を零しながら振り返る。凍冴と呼ばれた青年が、ふとその笑いを納める。
「ようやく、かな」
「そうですね」
「あの一族は特殊だからな。機会を逸するわけにはいかない」
「…承知」
 未来を読み取る力を備えるという清都の民。有名なのは先見の能力ばかりだが
「未来を操るという清姫の力…それに、清都の男連中はその身に折れない刀を隠すんだそうだ」
「自らの潜在能力を刃とし、その身を鞘として…」
「そう。予知能力ばかりが有名だが、あれはなかなか有能な戦闘能力を持つ国だよ。その刃は折れることもなく穢れる事もない…研ぐ事も。能力の高さにより形態を替え、己の成長に合わせて変化する。…国の財力に武力というのは少なからず負担をかけるからな。」
「それも、強みの一つでしょうね」
「確実に、一因だろう」
 手に入れられれば、文句はないが……
「抵抗するなら、蹴散らすまで」
 静かに笑うその裏に、強い自信が覗いた。


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