その手に掴むすべてのものへ(2)

 ゆっくり考えるといいと、刹那は言ったけれど。一方で、考えたところで王が変わるわけではないとも言った。
 そう、一族の王は獣が決める。だから王は選ばれるだけで是も否もない。
 それでも。それでも……即答できるようなものではなく。

 ソレからの一月というもの、私はろくに眠れず、食べられず、笑う事さえできなかった。母さまが心配して色々聞き出そうとしたけれど、私はとうとう何も答えなかった。父さまは、何かを察しているのか、何も言わず、ただ優しく背中をなでてくれた。
 刹那は刹那でなんにも言わないで、いつも通りに暮らしていた。ただ、時々あの視線でアタシを射貫くように見つめる以外は。考えは変わらないと言いながら、強く求めない、急かすでもない。周りを囲うぎりぎりで、逃げ道を用意してくれているような、そんな態度は、ますますアタシを悩ませた。だったら、いっそのこと是も否もないくらいに強引にしてくれたほうがよっぽど楽だ。


「ねぇ、楊花・・・王って何?」
「はぁ?!」
「・・・王になるって、どんな気持ちなのかなぁ」
「なに、突然。氷花、王になりたいの?」
「…違うけど。……でも」
「…王様って、寂しそうだよね」
「…寂しい?」
「だって、一族は獣と契約して体が丈夫になったり怪我のし難い体になったりはするけれど、基本的には普通の人間だもの。王様は、不老不死なんでしょう?…家族が居なくなっても、友達がいなくなっても、ずっと生きてかなきゃいけないんだもの…それって、寂しいと思わない?」
「そうだね。」
 それでも、あの瞳をあきらめられない自分が居る。
 そのまま枕に顔をうずめた氷花に楊花はそっと頭をこづく。
「けど、誰よりも必要とされてるのも、王様よね」
「………うん。」

「ねーぇ、氷花、今日は一緒に寝ようか?久しぶりじゃない?」
 にこにこ笑いながら話しかけてくる楊花に、泣きそうになる。刹那を手に入れる代わりに失うのは、こういうささやかで暖かいモノたちなんだ。
 楊花と一緒の布団にもぐりこみながら、それでもやっぱりココロが向かう場所を自覚してしまって、自分にため息をついた。


 そして、ある夜の晩、父さまに打ち明けた。
「…父さま、刹那、私にちょうだい」
 すこしだけ目を瞠ってそれから大きく息を吸い込んでゆっくりはきだして。たっぷり5秒は見つめてから父さまは云った。
「覚悟がいるよ」
「うん」
「自分で決めたんだな?」
「そう。私が決めた。…相談もしなくてごめんなさい」
 優しい微笑みで、小さく横に首をふってから、父さまは私の頭をなでた。
「いいんだ。俺も、母さんも蓮生も楊花も、みんなオマエを大切に思っているから。それだけを忘れなければ、何をしたっていい。」
 それから一度だけ抱きしめてくれた。


 そのまま刹那の部屋へ行った。
 寝てたのをたたき起こして、おもむろに
「契るって…どうするの?」
「こうするんだ」
 言葉と同時に降りた来たのは、密やかなため息と

 暖かな、唇。


page top