魔法の代用品を産み出した、梁國でも、解明出来ない謎ってのは山ほどある。
たとえば、双子の謎。双子の間だけで、伝わる虫の知らせって言うか、そういうもの。どっちかが具合が悪いとたとえ遠くにいてもなんとなく、わかるとか。そういうこと。
「だからさ、叉牙が腹痛いと、俺もなんとなく痛い、気がする」
さっきから、目の前の金髪の青年に熱弁をふるっているのは10かそこらの翠に灰色かかった髪をもつ少年。対する青年は、穏やかな笑顔を浮かべたまま、少年の話に相槌をうっている。
「で、白牙が具合悪くなると、叉牙も何か感じる、と?」
青年が、熱弁を振るう少年のすぐ脇に居る、同じ容姿を持つもう一人の少年に問いかける。問いかけを受けた、叉牙と呼ばれた少年が、大きくうなずいて
「すごいだろ?!」
と得意げに胸をはる。
そんな二人の様子を目を細めて眺めつつ、にっと笑って金髪の青年が言う
「その、すごい力を生かして、楽しい遊びをしないか?」
あの時の凍冴の手腕が見事だったと、想うのはつい最近のこと。
「いたいけな子供をだましやがって」
「人聞きが悪いな」
なんて言いながらも、ちっとも傷ついた風には見えない凍冴の顔を横目で睨みつつ、白牙がため息をつく。何時も一緒にいる相棒は、今頃我らが騎士団長様のしごきを受けているころだろうか。
梁國の“魔法”は機械仕掛けだ。騎士はその身に
だから、この国で双子が生まれると、片方が騎士、片方が母体の代用として利用される事が多かった。双子独特の、あの感覚がどうやら関係してるらしくて。双子同士の通信速度はどんなに優秀な母体との通信よりも速く、確実だった。
あのときの、楽しい遊びのお誘いもなんてことはない騎士団への入隊勧誘だったわけで。
「不満?それとも、俺を恨む?」
やわらかく問いかける声音がどことなく、いつもの自信のある声とは違って聴こえて、小さく笑う。
「凍冴でも罪悪感とか感じたりするわけ」
「たまにはね。」
穏やかな声は昔から変わらない。ただ、いつのころからか身に着けた圧倒的な存在感と、威厳と。それでも、俺らの前では出会ったころから変わらない悪戯小僧みたいな瞳に安心する。
「…オマエがさ。」
ポツリ話はじめた声に、静かな視線がこちらを向くのがわかる。
「オレらを利用することしか考えてないようなやつなら、此処にはいない。」
ゆるく笑う気配がして。
「…騙されるだけかもしれないよ、白牙」
そうかもしれない。そうじゃないかもしれない。それでも、此処にいる以外の自分を想像する事なんかできやしない。
「肉体的には実戦にでる叉牙のほうがきついけど、きっと想像以上に白牙は厳しいよ」静かに述べる声にウソがないことが分かる。
「母体の代理?」
「そう」
俺が向けた視線を真正面から捉えて凍冴が続けた。
「騎士が戦ってる間はもちろん、彼らがひとたび国を離れれば、母体は彼らの命を護る唯一の存在になるんだ。四六時中気が抜けない。それに、召喚する武器の性能を決めるのは母体の能力によるんだよ。母体が有能であればあるほど、強力な武器を召喚することができるんだ」
「…知ってる」
「…え?」
「これでも、色々勉強したんだぜ?オレら。ただ、いるだけじゃねーっての。色々わかったうえで、イエスって言ってんだ。オケ?」
絶句する凍冴にしてやったり、と笑う。なぁ、俺らもいつまでもあのころのガキのままじゃねーんだ。もっとオマエを助けたいと想ってるし、頼りにされたいと想ってんだぜ?
「あんま、なめてっと足元すくわれるからな」
びしりと指さして云ってやると、参ったなぁって笑う顔。子供の成長は矢のように早いんだってこと、教えてやるよ。
15になった俺と叉牙は今日から正式に騎士団員として、暮らし始める。
「おめでとう」
と笑う凍冴にニヤリと笑いかけて
「期待してて良いぜ?」
オレらは、やるときはやるんだ。なぁ、相棒?